『Arctic』監督インタビュー(FILMMAKER; May 2018)


先日Twitterで予告した通り、『Arctic』の監督インタビューの和訳を置いておきます。マッツがどのように作品に関わってきたのか垣間見えて興味深いです。

ネタバレはほとんどありませんが、少しはあります。前の記事以上のネタバレはないと思います。
いつものように和訳は直訳気味、[ ]は私の補足、()は元の記事にある括弧、固有名詞の和訳は適当、敬称略です。この和訳で知った情報を使う際には必ずソースを明記してください。


Source: FILMMAKER

「それは”彼は息ができない”から”彼は本当に寒い”に変わった」と、Joe Penna監督、カンヌのサバイバルドラマ『Arctic』について

LAを拠点にする脚本家であり監督であるJoe Pennaは、有名なチャンネルMysteryGuitarManで、YouTubeの世界において自分の力で名声を手にした。音楽とストップモーション動画への情熱を組み合わせたそのチャンネルは10年以上続いており、280万人の登録ユーザと4億超の視聴数を誇る。『Guitar Impossible [不可能なギター]』のような動画はGuggenheim Museumで上映されもした。

そのネイティブブラジル人は、トップブランドの多くのコマーシャルに加えて、『Instant Getaway』を含む短編映画でもさらに注目を集めた。その『Instant Getaway』はRon HowardとBrian Grazerによって制作され、『Turning Point』は2016年のトライベッカ映画祭にて選ばれ上映された。Pennaはまた、先日亡くなったスウェーデン人アーティストであるAviciiのために『You Make Me』の動画を監督したことでも知られている。彼はそのときの仕事が、彼の最初の映画である『Arctic』を作る機会を与えてくれたという。『Arctic』は、カンヌ映画祭において木曜のMidnightセクションのout of competitionで初上映された。デンマーク人俳優のマッツ・ミケルセンを主役とするその会話の少ない映画は、北極の厳しい地で生き延びようと試みる男の徹底した[stark]描写と、ミケルセンによる強く心を揺さぶる演技によって賞賛を受けだしている。彼のYouTube制作パートナーであるRyan Morrisonが[脚本を]共著した『Arctic』はカンヌ中にBleeker Street Filmsによって選ばれ、北米の映画館にて公開される予定である。

それは、pre-med[医学部前半]の修士課程から落第し名前に何の価値もなかった者にとっては悪いことではない。しかし自信のあるPennaは、彼の成功が決意と映画を作るという彼の純粋な欲望によるものだという。その色々なものを生み出す監督は、カンヌにて自然[the elements]に対抗する人間のサバイバルドラマをインディのスタイルで作ることの難しさとやりがいの両方についてFilmmakerに語った。

Filmmaker [以下F]: その映画のコンセプトはどうやってできたのですか?特に、いつあなたのYouTubeチャンネルの内容から飛び立とうとされたのですか?

Penna [以下P]: もともとのアイデアはインターネットで見たこの画像から湧いたんだ。いくつかの植物と木々で土地を作ろうとしている火星の画像。僕は、それは人類が生き延びるにはなんて面白くて恐い場所なんだろうと思った。僕は共著者(MysteryGuitarManの制作パートナーであるRyan Morrison)のところに行って、彼に僕には荒野の中の街が目に浮かぶよ[coule visualize]と言って、僕たちは、誰かがその土地で一人で生き延びようとするというアイデアに着地したんだ。僕たちは『On Mars』という脚本を書いて、僕たちのエージェントに送った。彼らは「これは素晴らしい。でも近いうちに公開されるRidley Scottの『The Martian』という映画のことは知ってる?」と言ったんだ。そういうことだった。僕たちは2,3週間かけて脚本を全部書いていたけど、それを変えないといけなかった。

だからRyanと僕はそれを北極に持っていった。それは「彼は息ができない」から「彼は本当に寒い」に変わったんだ。それはたしか1ヶ月くらいかかって、そして僕がその脚本を磨き上げるのに何週間もかかった。例えば、僕は”俳句”を少し追加した。長い一文からより短い文へ、そしてたった一言へと変わったページがあった。それはちょっと三角形を作る感じだった[3回曲がるイメージ?]。僕は、会話がとても少ないものの視覚的で面白い何かをしたかった。僕は脚本執筆のルールをできるだけ破った。

F: 一部の人々はその作品を『All Is Lost』と比べます。その映画もまた会話が少ないですが、それからインスピレーションを得ましたか?

P: 人はこの作品を『All Is Frost [全部凍った]』と呼んでるよ。いいと思う。僕はインスピレーションを得るためにできる限りすべての映画を観た。『All Is Lost』に『The Grey』、『Castaway』、『The Red Turtle』。特に、僕たちは『The Red Turtle』を中から外まで研究した。僕たちはそれを「Little Mysteries [小さなミステリー達]」と呼んでいた。というのも、その作品では、生き残った者が何かを見つめているのが、彼が反応することから分かるんだけど、でも僕たちは彼が何を見つめているのかさっぱり分からないんだ。君たち映画制作者は、サスペンスを高めるために好きなだけ長い間その情報を出さないでおける。僕たちはそれを『Arctic』でやった。Overgård(ミケルセン)が石のピラミッドを作り上げているのを見るとき、君たち観客は彼が何をやっているのかさっぱり分からない。僕たちがズームアウトして、君たちが雪の中に作り上げられた大きなSOSのサインを見るまではね。僕たちはできるだけ引き留めておいた。彼のバックグラウンドですら。彼は結婚指輪をしていない。何の写真もない。何の過去の話もない。その飛行機は映画が始まった時にはすでに墜ちていて、彼はすでにルーチン[決まった暮らしのリズム]を持っている。それは『Castaway』を半分過ぎたところから始めるようなものだ。

F: いつマッツが参加したのですか?

P: 彼は最後のギリギリの瞬間に参加した。僕たちはぴったりの出資者を得ようとしていて、脚本を変えたくもなかったから[時間がかかって]、アイスランドで雪がなくなりそうになっていた。ある人たちは「彼(Overgård)にいくつかフラッシュバック[過去の思い出しシーン]をくれるなら[出資]するよ」と言った。で、僕たちは「No」と言ったんだ。僕たちのエグゼクティブプロデューサーであるMartha De Laurentiisがマッツに、『Arctic』を彼の書類の山の上に持ってくるように口添え[suggested]して、彼はそれを気に入って、僕たちは数週間後には撮影していたんだ。

F: あなたのYouTubeチャンネルのおかげで、あなたはきっと制作のすべてをコントロールすることに慣れているかと思います。その映画をどう作るかにその経験は何か影響しましたか?

P: もちろん[Absolutely]。僕はまたその物語をできる限り普遍的[universal]なものにしていたいと思った。中国出身だろうとフランス出身だろうと関係なく、この物語を理解できる。それが僕のYouTubeのチャンネルでしていることなんだ。そこにはたくさんの音楽や動画の要素があって、みんなそれを理解できる。僕は映画も同じような方法で作りたいと思っていた。

F: その映画の見た目と感触についてお話ししましょう。その映画では、カメラワークが制限されていて、たくさんのものがとても静的です。DP[Director of Photography;映像監督]であるTómas Örn Tómassonとのコラボレーションの中で、どのようにしてその撮影スタイルに落ち着いたのでしょうか?

P: そう、僕たちはその制作の間中ずっとたくさんのドグマ[基本概念]を守ったんだ。その映画の最初の20分間は、僕たちはカメラには触らない。パンもチルトも無し。手持ちでの撮影も一切無し。観客が白熊を発見した後は、ゾッとする感覚を出すためにパンとチルトを始める。何かが彼を見ている?そして人間の存在が加わったら、やっと手持ち[カメラ]で仕事するんだ。

F: どのカメラを使用されましたか?

P: 僕たちは(ARRI) ALEXA Miniを使った。機内を撮影するときにカメラマンが撮影しやすいから。それからALEXA XTを使った。

F: どうやってカメラを雪から守りましたか?

P: それは簡単ではなかったよ。そこはずっと雪が降り続けていたから、僕たちはカメラにレインデフレクター[雨を飛ばす装置]をつけた。でもそれでも、雪がカメラの中に入り続けて、カメラを長い間ダウンさせ続けて、僕たちはAとBのカメラを使って撮影していたんだけど、時にはその両方がそうなった。僕たちが使った膨大な額のお金はカメラのために必要だった部品のためだった。僕たちは装置を運ぶために人間と同じ大きさの車輪を持つ巨大なトラックがないといけなかったし、セーフティ・ガードも必要だった。幸いにも、”カメラの前”に必要な装置については特に難しすぎることはなかった。僕たちに必要だったのは飛行機、ヘリコプター、そしていくつかのソリだった。

F: どのレンズを使用されましたか?

P: Cooke Anamorphic/i Prime Lenseで撮影した。それは美しいレンズで、ありがたいことに僕のカメラマン(Örn Tómasson)は65mmのマクロレンズをそのセットの中に持っていた。それがあの狭いスペースの中でマッツへの本当に素晴らしいクロースアップができるようになる唯一のレンズだった。

F: マッツはその映画のほぼすべてのフォーカスで、彼はかなり[深く各シーンに]関わりますが、一方でほんの少ししか話しません。彼がその役の準備をするにあたってお二人はどのように一緒に取り組まれましたか?

P: 僕たちは1週間のリハーサルをした。リハーサルを2時間くらいやったところで、僕たちは考えたんだ「僕たちは何をやってるんだろう。なんかこれはやめたいな」って。だから代わりに、僕たちは脚本について語り合った。僕たちにとって一つ一つのコンマ、ピリオド、そして俳句を理解することは必要不可欠[vital]だった。でも、そこで僕たちはそれ[脚本]を細かく分解しすぎだしてしまって、脚本を変えようとしだした。その週の終わりには、僕たちは僕の共著者(Morrison)と頭を突き合わせていて、僕たちは最初の脚本を引っ張り出すことになってしまった。その過程は、その脚本がなぜそのような在り方なのかということを僕たちに深く理解させることとなった。時には映画監督は、面白いアイデアを聞いて、ただそれが新しいからというだけの理由でそれをやってみたくなる。僕は、いい脚本家/映画監督は最高のものを見つける前にすべての選択肢を検討するものだと思う。

F: 何日間撮影されましたか?

P: 19日間。当初は25日間だったけど、天気のせいで何日かできなかった。

F: ということは、何度も撮るような機会はなかったのかなと思いますがいかがですか?

P: その映画の大部分はワン・テイクですよ。2回撮るときの理由といえばフォーカスか音のためだった。マッツと僕は、撮影の合間にクルー達が別のショットの準備をしている間に、リハーサルをしていた。そしてマッツはよく彼自身の撮影のために立っていた。代役を必要としてなかったんだ。そして僕たちはほとんどライトを使わなかった。それはすべて完全に自然なもので、平原に去っていく太陽を捕まえるために少しだけライトを使っただけだ。僕たちが北極に入り込むとき、僕たちは反射板もライトも使わなかった。完全に自然で、それは僕たちを身軽にしてくれた。

F: 撮影の日々は堪えるものでしたか?

P: 僕たちの[その]日々は長いものだった。僕はブラジルとLAから来ていて、そこは寒かった。僕たちは残業[予定より長引く撮影]をしないといけない日が何日かあった。一番長い日で15時間だったと思う。そして僕たちはそのすべての時間、外で作業していたんだ。ありがたいことに僕たちはみんなゴーグルをつけることができたけど、可哀想なマッツはできなかった。みんなトレーラー[ここでは映像ではなくて撮影関係者用トラックのこと]で働いていた人たちを見分けることができるよ。だって外にいた僕たちは赤いシワっぽくなった顔に鮮やかなリングができているから。最後に撮った僕たちのクルーの写真はとても侘しい[sad]ものだったよ。

F: 撮影地としてなぜアイスランドを選ばれたのですか?その自然の美しさの他に、税制優遇も一役買いましたか?

P: 要因はいくつかあった。彼らが税制優遇を上げた年に撮影していたから僕たちはラッキーだった。そして、アイスランドのクルーは非常に素晴らしいんだ。彼らは『Game of Thrones』のような大きなシリーズや『The Fast and the Furious』、『Interstellar』、『Oblivion』のような映画でも仕事をしている。この作品はもっと小さいもので、グループ全体は結束の強いもの[tight knit]だった。僕たちが風に殴られた時は、僕たちはみんな少しのあいだお互いに見つめあって、そしていうんだ「みんな大丈夫?うん、みんな大丈夫だね。よかった」って。彼らはそういった天気の状況にどう対応すればいいのかある程度知っていて、だから彼らがみんなまっすぐ立ってて、そしてマッツも彼のクレイジーなスタミナと体操選手とダンサーとしての背景のためまっすぐ立っていたとき、僕たちは安心を感じた。僕もなんとかまっすぐ立っていられた。僕を打たれ強く[resilient]してくれるバッテリーで温まるシャツを中に着ていてたからね。僕はアイスランドに着くまでその存在を知らなかったんだけど、それがあって良かったよ!

F: アイスランドの支援のおかげで、ポストプロダクション[撮影後の作業]もいくらかアイスランドでされましたか?

P: いや、それは全部LAでしました。僕たちは僕の編集者(Morrison)のベッドルームから編集した。VFX[ヴィジュアルエフェクト]がかなりお金がかかるだろうと知っていたので、VFXのためにお金をセーブしておきたかったんだ。

F: その映画はとても自然なので、そこにVFXのシーンがあるかどうかすら見分けるのは大変です。

P: 300以上のショットをVFXを使ってやったよ。Post Mangoというサンタ・モニカにある小さな会社の4人のチームがやったんだ。そして僕らのカラリストであるYvan Lucasはただもう素晴らしくて、すごくて、Formosaのサウンドチームも同じくらいすごかった。僕たちが入り混じってセッションしてるあいだに、Mark Manginiは自分がオスカーにノミネートされたということを聞いていた。こういう人たちのことは信頼する以外にない。

F: 最初から最後まで、この映画はどのくらい時間がかかりましたか?

P: 最初にアイデアが閃いてから映画が仕上がるまでは丁度1年と半年くらいだ。

F: この映画祭にいる人たちの多くはそのエンディングについて語っています。それは解釈は自由ですか?

P: 僕は”death of the author [作者の死; 解釈は著者が決めるものではないとする考え方]”を信じている。だから僕が考えることはみんなが考えることとちょうど同じ重要性しかない。観客はOvergårdの過去について1つも知らないし、彼がそこにどのくらいいるかも知らない、だから決定的な答えを持つ[答えを確信する]ことは間違ってるように思う。その映画の多くのことが観客に自分自身で物語を作り上げるように促す。だからそれはエンディングについても同じことだと思った。君たちが自分自身でエンディングを作り上げることができるように、導けていたらいいなと思うよ。

F: そしてあなたにとって地平線上にある次のことは何ですか?MysteryGuitarManからもっと来ますか?

P: 僕はそのチャンネルは絶対続けていきたいと思ってるよ。僕はこの映画に取り組んでからはただ時間がなかったんだ。そして僕たちは『Arctic』の精神的な続編である『Stowaway [*]』という作品について動いている。全体として、これは3部作にする予定なんだ。地球上にいるある人たちの最後の日々で始まり、火星への旅、そして火星の上では僕たちは北極にスイッチを変える。


[*]”Stowaway”には色々意味あり。しまいこむこと、密入国したりするために荷物に紛れ込むことなど。

マッツ今回も脚本を深く理解するのに関わって大幅変更に繋がったようで、そこが個人的にグッと来たので和訳しました。あと厳しい環境でもどーんと立ってるマッツ素敵。そりゃもうみんな安心感感じますよね…!

他のArctic関連の和訳はどうするか決めていないです。もし何か「これはぜひ!」というものがあればお気軽にTwitterでご連絡ください。

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私の個人的な感想は上記以外では「なんだこの読了感のいいインタビューは」でした。ネタバレしそうでしないし。映画制作関連のメディアさんだからかな。なんかこういう制作の裏側の情報を知るとまた一層応援したくなる。。日本に来てほしいですほんと🙏